テクデップ(Techdep)

コンピュータ、プログラミング、DTP(InDesign)に関する備忘録

原稿で字下げ? InDesignで字下げ?

 以前のエントリ(InDesignの文字組アキ量と行頭における始め括弧類の組方 - 無銘書房)に関連して、InDesignの行頭における始め括弧類の組方について。
 行頭における始め括弧類の組方は三種類ある。「段落行頭/折返行頭」の二種類の行頭に分けて考えると、具体的には

  1. 小説に多い「二分下げ/ベタ」
  2. 一般書籍に多い「全角下げ/ベタ」
  3. 新聞や雑誌に多い「全角二分下げ/二分下げ」

がある。
 これらの組方を実現するには、

  1. 原稿段階で段落行頭に「全角スペース」を挿入して段落字下げをする
  2. 原稿段階では全角スペースを入れず、InDesignの文字組アキ量設定で全て調整する

の二通りが考えられる。(1)の原稿例を示すと、

□これが本文。
□「括弧類で括られた文章」

の様になる(□は全角スペース)。一方として、(2)の例を示すと、

これが本文。
「括弧類で括られた文章」

の様になり、段落冒頭であっても全角スペースはない。
 つまり、二通りの入力が想定されて、三通りの中から何れかの組方をしたい。このためにInDesignをどう設定すればいいのだろうか?

文字組アキ量

 今回はInDesignの文字組アキ量で段落字下げを調整する。段落スタイルのインデントを直接指定する方法も結果論としては間違いではないけれども、文字サイズが変るたびに調整が必要なので、やや面倒であると思う。
 文字組アキ量の設定ダイアログを開くと、たくさんの設定項目がずらりと並んでいるから、瞥見しただけではどう設定すればいいのか困惑することもあるかもしれないが、実際のところ「段落字下げ」に関しては三箇所の設定を調整すればよい。

 ここで「折返行頭」の括弧類の字下げを調整する。
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 ここでは段落冒頭を自動字下げするかの設定と、「段落行頭」の括弧類の字下げの設定である。
f:id:seizo_igawa:20140927183619p:plain

 設定した「文字組アキ量」を「段落スタイル」と関連付けるには、以下の部分を設定する。
f:id:seizo_igawa:20140927183631p:plain

それぞれを比較すると

 さて、三通りの組方を実現するにはどう設定すればいいかは以下の通りになった。ハイフンのみの項目は該当する設定がないことを表す。

原稿で字下げ(原稿段階で全角スペースの挿入)

段落行頭/折返行頭 段落字下げ 段落先頭始め括弧類 行頭の起こし約物
二分下げ/ベタ - - -
全角下げ/ベタ なし 始め括弧半角もしくは始め括弧全角 ベタ固定
全角二分下げ/二分下げ - - -

InDesignで字下げ(原稿では全角スペースの挿入なし)

段落行頭/折返行頭 段落字下げ 段落先頭始め括弧類 行頭の起こし約物
二分下げ/ベタ 1文字 段落字下げ-始め括弧半角 ベタ固定
全角下げ/ベタ 1文字 段落字下げ+始め括弧半角 ベタ固定
全角二分下げ/二分下げ 1文字 段落字下げ+始め括弧全角 二分固定

 原稿で字下げする場合は悲惨な結果となった……。原稿段階で字下げすると、どう設定しても一般書籍で主流の組方しか実現できないということがわかる。一方でInDesign段階で字下げするのは後の調整がいくらでも利くので、三通りの組方を問題なく実現できる。
 

字下げは原稿? InDesign

 柔軟性という観点からすれば、もっとはっきり言ってしまえば組版の都合からすれば、InDesignで字下げをした方が楽である。
 ただ、この場合「原稿の段階で字下げ(全角スペースの挿入)をしない様」に執筆者に御願するか、InDesign組版する前処理として、原稿段落冒頭の全角スペースを全部削除しないといけない。
 執筆者へ御願するのは簡単であるが、こういったことは筆者の経験上案外守られない。執筆者にとって段落冒頭のスペース挿入は半ば無意識化した行為であることもあるので、これをいきなり切り替えろと言われても、なかなかしてもらえない(逆も然り)。そうなると編集段階で一括除去ということが望ましい。
 もちろん、括弧類の組方が最初から「全角下げ/ベタ」以外の組方はしないと決まっていれば、原稿段階で字下げされたまま組版しても構わないと思う*1

小説原稿という特殊例

 以上で話を締めておきたいが、原稿で字下げされた場合の特殊例である「小説用原稿」についても考えてたい。ほとんどの小説原稿のテキストデータでは、

  • 通常の段落冒頭で全角スペース挿入
  • 始め括弧類が段落冒頭に来る場合は全角スペースなし

といった書式であることが多い。
 さて、この様な原稿の場合であると、どのような組方が実現できるのだろうか。結果としては次の通りであるけれども、案の定「小説で主流の組方」しか実現できない。

小説用原稿

段落行頭/折返行頭 段落字下げ 段落先頭始め括弧類 行頭の起こし約物
二分下げ/ベタ なし 始め括弧全角 ベタ固定
全角下げ/ベタ - - -
全角二分下げ/二分下げ - - -

 注意点としては、InDesignのデフォルトの文字組アキ量では、小説で主流の組方を実現できないことだ。似た様な組方として「約物全角」というデフォルト設定があるけれども、「二分下げ/二分下げ」というとんでもない組方をしてくれるので使用してはいけない。

実際はもっとちぐはぐ……

 だが、実際は小説家志望向けのウェブサイトや文献では、次の様に説明していることがほとんどである。

  • 地の文(会話文でない文章)は全角スペース挿入
  • 会話文は全角スペースなし

 さて、ここで小説界隈でいうところの「地の文」とされる段落の冒頭に、始め括弧類が来た場合(一例として、単語の強調などで)、小説の執筆者はどうするのだろうか――。おそらく、ほとんどの執筆者が全角スペースを挿入する。理由は「地の文」であるから。「地の文はスペースあり、会話文はなし」というルールは「組版」の観点からは不正確である。
 この様な原稿をInDesignに無批判に流し込んでしまうと次の様な組方になる。
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「不適当な組方の一例」

 これはInDesignの設定をどう頑張って調整しても妥当な組版にはできない*2。つまり、編集段階で原稿冒頭のスペースの除去を行って、InDesignで処理される前に「妥当な入力」にする必要がある。

まとめ

 行頭の始め括弧類の組方で長々と述べたが要点をまとめると、

  • InDesignで字下げした方が柔軟性が高い
  • 「全角下げ/ベタ」以外の組みをしないのであれば、原稿での全角スペース挿入も可能
  • 執筆段階での字下げでは、文字組アキ量では調整しきれない想定外な書式もありうる
  • テキスト原稿(組版前)の段階である程度の書式調整が必要

*1:ただし、調整によって段落行頭の全角空白と文字との間にアキが出るおそれがある

*2:大手の商業出版でも例で示した様な組方をしている小説本がある……