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テクデップ(Techdep)

コンピュータ、プログラミング、DTP(InDesign)に関する備忘録

SHIROBAKOはヒーローズ・ジャーニー

先日の投稿(物語論から「艦これアニメ」を見る - 無銘書房)で「艦これアニメ」を物語論の観点から解釈しましたが、今回はアニメ業界を題材にしたアニメ作品「SHIROBAKO」を取り上げます。所謂「業界もの」に分類される本作ですが、このSHIROBAKOはヒーローズ・ジャーニーに忠実に従って居ることに気が付きました。前の題材がヒーローズ・ジャーニーを大分逸脱したものでしたから、その比較も兼ねてSHIROBAKOを物語論の観点から見ていきます。

ヒーローズ・ジャーニー

最初にSHIROBAKOのストーリーとヒーローズ・ジャーニーとの対応を示します。

話数 ヒーローズ・ジャーニー 概要
1 日常 高校時代
2~3 賢者との出会い、第一関門突破 第四話の納品危機
4~12 テスト/仲間 最終話の製作進行の担当
13~21 危険な場所への接近 第三飛行少女隊の製作
22~23 最大の試練、報酬 最終話の全没の危機
24 帰路、再生、帰還 最終話の納品

冒険への誘い(ただし、回送シーンとして示される)と拒絶に対応するくだりがないことがわかります。さて、詳細を見ていきましょう。

日常

冒険に入る(業界に入る前)の日常としてアニメーション同好会が描かれます。

通常の物語論では、この後に冒険への誘いがあるわけですが、彼女達は既に冒険への誘いを受けた状態であり、これが省略されて居ます。そして、それに対する拒絶がないのも特徴です。

賢者との出会い、第一関門突破

矢野は宮森の先輩として、製作進行として大事なことはチームワークであることを教えます。

第一関門はえくそだすっ!の第四話の納品が諸般の事情から危機になることであります。しかし、宮森は廻りの助力で無事に納品させて、製作進行として第一関門を無事に突破します。

テスト/仲間

第一クールの終りまでがテスト/仲間のくだりです。ここで宮森の仲間達の顔ぶれが固定します。ただし、SHIROBAKOでは敵対者はここのくだりでは明かされません。

テストは最終話の製作進行を任されたことが該当します。監督の拘りから再び危機に陥りますが、宮森はベテラン原画マンの杉江に協力を仰ぐことで、結果として危機を乗り切ります。このテストにより、同僚の結束(特に原画関係)は強まり、宮森はさらに大きな成長をとげました。

高校時代からの仲間にもテストがなされます。原画の安原はスランプに陥る、CG製作の藤堂は入社前の理想と入社後の現実とのギャップに打ちのめされて退職を決断する、声優志望の坂木はなかなか役が廻ってこないことに憂鬱になる、脚本家志望の今井も他の仲間が既に業界に入って居ることに焦りを覚えます。ただ、彼女達の脱落(その道を諦める)はありませんでした。

しかし、同僚では離脱者が出ます。落合が別の製作会社に引抜きかれて転職し、本田はえくそだすっ!の完成後に退職することが示されます。また、矢野が家族の危篤により一時的に離脱します。この同僚の相次ぐ離脱はこれ以降のくだりで宮森を現場の中心人物にさせるためのものです。

危険な場所への接近

先のテスト/仲間/敵対者のくだりで確定した仲間とともに新たな外的な目的の達成に動き出します。

第二クールの冒頭で第三飛行少女隊の製作が決定します。人気の漫画作品のアニメ化であるから利害関係者も多い、それに加えて宮森もデスクに昇格して責任も重くなって居ますから物事を進めるには今まで以上に苦労することが予想されます。つまり、第二クールの冒頭で第三飛行少女隊の完成は「危険な場所」(到達すべき場所)として明示されたわけです。

前半ではえくそだすっ!の完成が外的な目的でしたが、ここでそれが第三飛行少女隊の完成に交換されたのも特徴の一つです(何れにせよ何らかのアニメ作品を完成させる目的に変りありません)。

さて、危険な場所への接近ですから、道中は平穏ではありません。前半と同じ様な事情で製作に支障が出ることもあれば、原作者の意向らしきもので作業の手戻りもあります。後者は本作における新たな妨害要素です。また、この道中で宮森は平岡を御しきれない(作画監督からクレームを受ける、同僚と喧嘩になる)などの失敗も重ねます。

また、宮森の内的な欲求が達成できなかったことが、ここのくだりで明かにされます。宮森、安原、無事に転職が成功した藤堂、今井はそれぞれの立場でこの作品の制作に関ることになりましたが、ただ一人坂木だけは関れませんでした(同作品の声優の選抜試験を受けるが落ちる)。欲求の実現には後一歩及ばなかったのです。

敵対者は誰?

危険な場所への接近のくだりだけを見れば、敵対者は原作者の様に見えます。キャラクターデザイン案で何度も没を出すなど、製作スケジュールに大きな影響を与えて宮森達を目標から遠ざけて居ます。しかし、姿形が全く見せない以上、敵対者としては不適当です。

最大の試練

最大の試練はオリジナル最終話の全没危機です。宮森達は原作者の意図をどうにか汲み取ろうとして、編集を通さずに原作者に直接会うという荒唐無稽な策を打ちます。

原作者と会うくだりで、蒼穹に向かって聳ゆる夜鷹書房の本社ビルはさながら魔王城であります。ただし、その魔王城に乗り込むのは監督です。ここでもっと荒唐無稽なプロットにしたければ、宮森も乗り込むくだりにすれば良かったでしょうが、本作品ではそれをさせて居ません。あくまで宮森はデスクである、つまりエンターテイメントとリアルさとの調整を意識した結果でありましょう。

そして、監督と原作者との会談で最終話の落とし所が確定し、また敵対者が編集の茶沢であることが明かされて直ちに排除されました。宮森達は最大の試練の山場を無事乗り越えたのです。

報酬

最大の試練を乗り越えて無事に最終話の追加アフレコまで進みます。ここのアフレコの流れは主人公が報酬を手にするくだりです。追加アフレコに際して新キャラクターを登場させることになりましたが、その声優として抜擢されたのは宮森の同期たる坂木でした。ここで宮森は、高校時代の仲間が同じアニメ作品に関れたという報酬を入手したわけです。

帰路、再生、帰還

作品が完成して外的な目的が達せられましたが、まだ冒険は終りではありません。

帰路のくだりとして納品作業が描かれますが、このとき宮森は広島まで行かされます。これは宮森を東京から物理的に遠く離れさせることで、再生のくだりを挿入しやすくするための便宜的なものです。

ここでSHIROBAKOは、帰路が激しい逃亡劇であることを忠実に守ります。本作品では「テレビ局の納品締切が迫りくる」という時間的なもので追手を表現して居ます(ただし、興津総務に対しては、警察のパトカーが物理的な追手として示されました)。

東京へ戻る新幹線の車中は、ヒーローたる宮守の再生のくだりです。非日常から日常に戻る際、宮森は今後もアニメに関っていくことを決めます。

最後に宮森は仲間達が待っている場所(宴会場)に帰還します。このとき携えられる宝は宮森がデスク・製作進行として培った経験、アニメに対する思いです。

外的な目的と内的な欲求

SHIROBAKOは外的な目的も内的な欲求も明確に認識できます。

外的な目的

言うまでもなくアニメ作品の完成です。鑑賞者からも容易に識別でき、外的な目的の条件を満たして居ます。

内的な欲求

劇中では「七福神」をもう一度作りたいことに言及して居ますが、これを抽象化すると高校時代の仲間全員で同じアニメ作品の制作に(各々の立場から)関りたいことが宮森達の内的な欲求です。本作では第三飛行少女隊の関係者全員が招待された宴会場に仲間全員が揃って居る光景を見せることで、その目的が達せられたことを明示して居ます。

キャラクター

ヒーロー

もちろん宮森です。

使者

冒険(業界)への誘い役を果たしたのは、宮森が幼少期に見て感動した「アンデスチャッキー」です。

門番

本作品では不在です。回送シーンでの就活が門番と言えば門番なのかもしれません。

賢者

矢野先輩です。製作進行のイロハを授けるなど、賢者として役目を果たして居ます。

シャドウ

平岡が該当します。宮森と同じく「好きを仕事にした」人間ですが、業界に入った後のギャップでやさぐれて居ます。ヒーローとは先に、主人公と正反対の方向に自己実現を成し得たという典型的なシャドウです。

もっとも最後は大分丸くなりつつありますが、これはスターウォーズで暗黒面に堕ちたダース・ベイダースターウォーズでのシャドウ)がジェダイの騎士に戻った様に珍しい現象ではありません。

トリックスター

トリックスターの条件を満たすのは高梨です。お調子者の彼は仕事の現場ではトラブルを頻発させますが、作画監督とCG監督とを結び付けるなど結果論から見れば良い結果を招いて居ます。また、周りから孤立しつつあった平岡と積極的に関るなど、宮森にできないこと(平岡の心の壁を越えること)をやってのけて、優秀なトリックスターとして動いて居ます。

変化するもの

興津総務が該当するかと思われます。有能な総務としての彼女は普段は傍観して居る立場ですが、いざというとき(脚本の都合の良いとき)に仲間になるのは、まさに「変化するもの」の典型です。

彼女が「変化するもの」であることは、最終話で渡辺プロデューサーが彼女を「ワイルドカード」と称したことからも窺えます。

敵対者

SHIROBAKOでは敵対者に該当するのは茶沢です。後半では一見して原作者が該当するかの様に話が進められましたが、最大の試練のくだりで真の敵対者として明かされます。

敵対者はヒーローと相いれない目的を持つものです。SHIROBAKOの登場人物は良い作品を作ろうという思いを立場やキャリアの相違こそあれども持って居ますが、茶沢にはそれが見えません。また、編集としての役目もろくに果たそうとせず、製作の進行を妨害させる結果を何度も招いたことからも敵対者であることは明かです。この敵対者たる茶沢は、最大の試練のくだりでめでたく排除されました。

まとめ

SHIROBAKOは物語論の構造に概ね従って居ることがわかりました。冒険の誘いやその拒絶のくだりはありませんが、業界ものの作品なのですから、そこは序盤の時点で描かなくとも大きな問題はありません。テスト/仲間/敵対者から最大の試練までのくだりを丁寧に描くなどストーリーとして軸はしっかりとあります。キャラクター、外的な目的と内的な欲求とも機能的に配置されており、良作として称するにふさわしいものでした。